機関の反省会⑦

キングダムハーツ(ギャグ系)

No.10とNo.14が本編を振り返る

ここは存在しなかった世界のビル街に位置する、ちょっと洒落たバー “摩天楼”。

その店の奥のカウンターに黒いコートを着た金髪の男が座っている。

彼の名前はルクソード。

紳士かつ常識ある振る舞いでクセ者の多い某機関では色々な意味で重宝されている男である。

この日、ルクソードは日頃の疲れを癒すために一人で飲みに来た。

……はずだったのだが、店員・客共にノーバディばかりなので、正直気が休まらない。

しかも、今夜はいつにも増して客が多い。

心など無いがプライベートで同僚(?)や部下(??)と一緒に居ると自分が休暇中であることを全く実感できない。

実は、ルクソードは仕事とプライベートを分けたいタイプの男なのだ。

「マスター……今日はウォッカをくれるかね?強い酒でないと酔えそうにない」

店長のソーサラーは静かに酒の準備を始めた。どことなく動きに元気が無い。

ゼムナスの配下ノーバディとして働く彼(?)は、心なんて無くても気苦労が絶えないのかも知れない、とルクソードは思った。

(今度このマスターとサシで酒を飲んでみたいものだな———)

そんなことを考えながら、ルクソードはソーサラーの心中に思いを馳せた。

…と言っても、ノーバディに心など無いのだが。

その時だった。

ガタンッッ

店の入口のドアが勢い良く開いた。

その開いたドアから店の中に入ってきたのは黒髪の少女であった。

「ルクソード?」

「シオンか?こんな時間にこんな場所で何をしている?」

「…外で気晴らしをしようかと思ったの」

シオンは受け答えもそこそこにして、シオンはルクソードの席に歩み寄る。

その姿には明らかに覇気が無かった。

「シオン…酒を飲むことが出来るのは20歳以上の成人だけだ。ノーバディの世界に法律など無いが、君のような年端もいかない少女がこのような店に来る事には感心せんな」

「いいのよ。あたし…お酒って飲んだことないけどお酒を飲むと嫌なことを忘れられるんでしょう?」

(これは…精神的に相当参っているようだな)

「だからいいのよ。お金だって少しだけど持ったきたし…」

「シオンよ……取り敢えず座れ」

シオンルクソードに促されるまま彼の隣に座った。

「何があった?」

「別に何も……」

「何もないのに未成年の君がバーでヤケ酒しようというのも可笑しな話だな」

「……………」

「話してみたまえ」

「サイクスに『おまえのような役立たずが反省会シリーズに出る資格は無い』……って言われた」

(サイクスも相変わらず容赦が無いな…)

「あたし、何かもう嫌になっちゃって…。ロクサスもアクセルも今日は任務で遠くの世界に行ってるし、城にも居づらくて…。何となく街を歩いていたらたまたまこのお店が目に入ったの」

「それで酒を飲んで嫌なことを忘れよう……と?」

「シグバールやザルディンなんて毎晩のようにお酒を飲んでるもの。きっとお酒って凄く美味しいんだろうなーって思ってた。だからあたしもお酒を飲めばいい気分になれるんじゃないかなって……」

「……ホウ」

マスターがルクソードの前にウォッカが入っているグラスを持ってきた。

「マスター、確かこの店にはノンアルコールの『パオプジュース』というドリンクがあったな?それを彼女に」

「え……で、でも」

「シオン…こういう時は先輩の厚意を快く受け取るのが礼儀というものだ。わかるかね?」

「えーっと…よくわかりません」

「分からなくても結構。これは私の奢りなのだからな。せいぜいその意味を考えたまえ。私からの宿題だ」

「は…はあ……」

数分後、マスターが特製パオプジュースをシオンのもとへ運んできた。

世界を隔てる壁を超えて、デスティニーアイランドから仕入れた“パオプの実”という果実から作られたものだ。

シオンは目の前のグラスから漂ってくる匂いに懐かしさのようなものを感じた。

「ではシオン…このあたりで乾杯といこうか」

「あの…“カンパイ”って何?もしかして“完敗”のこと?思いっきり負けることに何の意味が……?」

「君はどうやら今でも仕事モードのようだな。『完敗』ではなく『乾杯』だ。『乾杯』というのは仕事に疲れた者たちが仕事を一切忘れて酒を呑む時に言う合い言葉だ。そして……」

キィーン………

ルクソードとシオンのグラス乾杯の音が店内に響いた。

「このようにして互いのグラスを交わして、仕事に疲れた相手を労うというわけだ。基本的な社交マナーとして覚えておきたまえ」

「仕事に疲れた…?じゃあ、ルクソードも機関の任務に疲ちゃったから、この場所に来たの?」

「まあ、そんな所だな」

ルクソードは凄まじい速さでウォッカを飲み始めた。

仕事が出来る男は飲むペースが速いのである。

狭間の世界での“大人”とは

シオンもルクソードに倣ってパオプジュースを飲む。

…が、やはり酒の味というものが気になって仕方なかった。

「ルクソード……どうして20歳未満だとお酒を飲んじゃいけないの?」

「子供だからだ」

「どうして20歳未満は子供なの?」

「光の世界ではそういう鉄のルールがあるのだ。20歳に満たない者は社会的には未成年として扱われる、というルールがな。まあ、光の世界によっては更に細かいルールがあったりもするが基本はこうだな」

「そっか…20歳だとオトナなんだ?」

「ウム」

「でも18歳以上ならオトナとして扱われるって前に聞いたことがあるよ?18歳以上なら夜の街をブラついて遊んだりしてもいいって」

ルクソードは口の中のウォッカを吹き出しそうになった。

否、もしかしたら少し吹き出したかも知れない。

この純粋な少女にこんなことを吹き込んだのは何処のどいつだ?

「シオン…18歳以上は大人だという話、誰から聞いた?」

「アクセルが言ってたの。少し前にアクセルがロクサスに『世の中には18歳未満のお子様は足を踏み込んじゃいけない大人の世界があるんだ』って言ってたの。ロクサスは『もう俺は子供じゃない!』って言って怒ってたけど…だからあたしは18歳になればオトナだしお酒を飲んでもいいんだって思ってた」

「シオン、アクセルが言ったことも間違いではないが一つの例えなのだ。光の世界では18歳になれば車の免許を取る権利が与えられる。おそらくアクセルはそのことを言いたかったのだろう」

「そうなの?でもね、何か変なんだ」

「変?」

「その後でアクセルはね、『バレなきゃいいんだ』とか『おまえはどう見ても18歳未満だからバレる』…ってロクサスに言ってたの。どういうことかな?」

アクセルはこの年若い後輩達にどういう教育をしているのだとルクソードは思った。

せめてそういう話は、誤解を招かないようにしろ!!

…とも思ったのは、ここだけの話。

「しかもね…あたしが二人に『何の話をしてるの?』って聞いたら二人とも『何でもない!』って言って教えてくれないの。あたしたちは親友のはずなのに隠し事をするなんて…あたし…ちょっと悲しくて……」

「実はなシオン、光の世界で18歳未満の者が車を運転しているということがバレると社会から厳しい罰を受けねばならんのだ。わかるか?罰金を取られた上に自由まで奪われる。非常に重い罰だ。アクセルはその危険性についてロクサスに忠告していたのだろう」

「…そうかな?」

「そうに違いがなかろう?シオンにその事を隠そうとしたのは君に余計な心配を掛けまいとする彼らなりの配慮であったのだろう。これで話の筋が通る」

「……通ってないよ」

「そんなことはない。君から聞いた話を総合して考えれば、これで合点がいく」

「…『女の子は知らなくてもいいことなんだ』って…二人とも最後にそう言ったんだもん」

余計なことをしてくれたものだ。

いや、言ってくれたものだ。

ルクソードは心底そう思った。

「あたしだって、アクセルもロクサスも男だってことは知ってる。あたしは女。あたし達は親友だけど、性別は違う。あたしだけ女。でも…女であるあたしは知らなくてもいい…っていう意味がよくわからない」

「フム」

「きっと…男同士に共通する『何か』があって、女であるあたしには分からないものがある。しかも、男の人にとって女にはなるべく知らせたくないと思うような『何か』があるから…二人はあたしに話の内容を隠そうとしたのよ、きっと」

「シオン、おそらく君の考えは間違いではないだろう。たが男という生き物は仲間意識を何よりも大切にするものなのだ」

「え?そうなの?」

「そうだ。これは心を持たないノーバディといえど例外ではない」

「本当に?」

「信じられないかね?では、君と同じ女性であるラクシーヌを例にしてみよう。客観的に彼女を見てどうだ?仲間意識を大切にするタイプに見えるかね?」

「全然見えない」

「その通りだ。一般論ではあるが女性は男性よりも仲間意識というものを重視しないものだ。勿論、ラクシーヌは極端な例ではあるがね」

「へぇ……」

「これまた一般論だが、心理学的には男の仲間意識とは競争心に基づいて形成され、女の仲間意識は秘密を共有することによって形成されるという説が有力視されている。これはノーバディの心理にも当てまる事なのかも知れんな」

「ふーん……」

シオンはイマイチ納得できていないようだが、一応の理解は出来たのか黙ってパオプジュースを飲み始めた。

どうでもいい話に説得力を持たせ、悩める少女の疑問(?)を解決したルクソードの功績は大きい。

「何かさ、ルクソードって色んなコト知ってるんだね」

「伊達に何年も生きていないのでね」

「ルクソードって、ノーバディ歴は長いの?」

「まあ、それほど長くはないな。ナンバーからお察しの通り、マールーシャ以上デミックス未満だからな」

「でも、その割には機関の中でも違和感あんまりないよね。デミックスなんて雰囲気的に凄く浮いちゃってるのに」

後輩から『浮いてる人』として認定されたデミックス。

そのことが不憫だと思う反面、確かにルクソードも機関に加入した当初はデミックスのことを空気の読めない“勘違い野郎”くらいにしか思わなかった。

早い話、同僚(?)が彼に対して抱く印象は似たようなものなのだろう。

「ルクソードって、機関の中では常識人だよね」

「そうかね?」

「うん。だって機関員って変な人が多いだもん。だからルクソードみたいな普通の人が逆に目立つんだよ、きっと」

「それは奇遇だな…シオンよ。私も前々から、いや、機関に加入した日から妙な輩が多い組織だと内心では思っていた」

ルクソードは機関にスカウトされた日のことを思い出した。

やけに喋るのが遅い男に命名(?)されたかと思えば、音楽マニアの無能先輩(当時)に城での生活ルールを教え込まれ——。

自分はえらい所に来てしまったとよく思ったものだ。

機関員の働き方改革

「ところでシオンよ、君は機関内で一番ウマが合わないメンバーは誰かいるのかね?」

「えっ…誰って言われても…」

「折角の機会だ。腹を割って話してみないかね?君の価値観というものに興味があるのだよ」

シオンは『うーん』と唸って腕を組んだ。

即答出来ないあたり、どうやら心底嫌いなメンバーはいないか、もしくはそのメンバーについて話をするのは気が引けるようだ。

「えっと…サイクスかな。やっぱり」

「ふむ。それは何故かな?」

「…冷たいから」

どうやらシオンは358/2 Daysでサイクスから酷い扱いを受けたことを根に持っているようだ。

まあ、無理もない話ではあるのだが。

「だってサイクス、あたしが人形だからってあからさまに辛く当たるんだもん。あたしだって機関の一員で、機関のために頑張って働いてるのに…」

「なるほど。君も大変だな。いつぞやロクサスに話したことがあったが、末席の者はつくづく報われないな」

「そうだよ。サイクスが酷い人なのは仕方ないけど、どうして他の人たちも、あたしたちのことを誉めてくれないのかな?あたしもルクソードも、一生懸命に働いているのに…」

「組織とはそういうものだよ。特に機関のように人数が少ない組織ではな」

機関ではナンバーが下位の者が蔑ろにされる風土が出来上がっているのだ。

しかも休暇は1年を通じて1日だけ(※358Days参照)いう体たらくである。

とんでもないブラック企業である。

「光の世界ならば、ストライキを起こすという手段もあるのだがな」

「何?ストライキって」

「簡単に言えば労働者の抗議活動だな。雇用側に対して、被雇用者が労働せずに反目することだ」

「ええと…ごめんなさい。どういうことか、よく分からない」

慣れない言葉に戸惑うシオンであった。

それもその筈、彼女は生まれた時から機関員としての労働に勤しんできたのである。

抗議活動など考えたこともなかった。

「つまりそれって、偉い人…機関で言えばゼムナスに逆らうってこと?」

「シオンよ、滅多なことを言うものではないぞ。だが我々に例えれば、つまりそういうことだ。使われる側の者が労働条件の改善を主張するというわけだ」

「でも、ゼムナスに逆らったらダスクにされちゃうよ?」

「ああ、そうだな。では、最初に断っておくが私は機関にも指導者にも背くつもりは毛頭ない。よって、今から私が話すことはあくまで仮定の話だ。よろしいかな?」

「え?うん」

そうだ、これは仮定の話だ。

決して、本編のマールーシャやラクシーヌのような反逆行為を働くわけではない。

あくまで目の前にいる純真な少女に『常識』を教えるだけだ。

ルクソードは自分にそう言い聞かせた。

「シオン、君はダスクにされることを恐れているようだが、光の世界では組織側からの不当な処罰など本来あってはならないことなのだ。まずは機関そのものが組織として異常なのだということを認識してほしい」

「うん」

「光の世界では、労働する側が雇用者に対して異議を申し立てることは決して悪いことではない。むしろ健全なことだ」

「健全…?それ、本当なの?」

「まあ、君にとっては理解し難いことかもしれんな。では、分かりやすいように我々に例えて説明しよう。機関にいては労働する側が私たち機関員であり、雇用者は指導者であるゼムナス殿、及び副官であるサイクスだ」

「ゼムナスやサイクスはあたし達に“あーしろ こーしろ”って言うから、そうだよね」

「君は賢いな。では我々の立場関係がハッキリしたところで、ストライキの具体的行為について説明しよう」

「うん。お願いします」

「では、そうだな…。シオンよ、君は確か一時期キーブレードが使えなくなった時があったな?」

「うん。あの時はロクサスとアクセルがあたしを助けてくれたの。でも二人が居なかったら、あたしとっくの昔にダスクにされちゃってたと思う」

「光の世界の法に則れば、君は任務を拒否する、という選択肢もあったのだよ?」

「え!?そうなの?」

またもや戸惑うシオンであった。

彼女のような人物が当然のように居るあたり、如何に機関がブラック企業染みているかが分かる良い例であろう。

「光の世界であれば心身の不調を訴え、雇用者から与えられる仕事を拒むことも出来る。つまり本来であれば、君はキーブレードが使えるようになるまで休養し、その間も機関側から衣食住を保障してもらう権利があったのだよ」

「嘘…。だってそんなことしたらダスクにされて…」

「だがなシオン。よーく考えてみれば分かることだが、君がダスクになってしまったらハートの回収は誰がやるのだ?」

「それは…ロクサスがやるでしょ?」

「そうだな。君の分までロクサスが頑張るかも知れんな。しかし君が不在で、かつロクサスが体調不良等でハートの回収が出来なくなれば困るのはゼムナス殿、ひいては機関側ではないかね?」

「あっ……!!」

ハッとするシオンであった。

そうだ、自分もロクサスも居なければ困るのはゼムナスやサイクスである。

なぜなら、キングダムハーツ完成のためにはハートの回収が必須だからである。

流石はルクソード——。

シオンのようなブラック体質にどっぷり浸かっている人間に、機関という組織の体質に気付かせた見事な説明振りである。

「不調を理由に君を粛清してしまったら困るのは、むしろ機関側。そうなれば、そのことを条件に交渉をする余地がある」

「コウショウ…??」

またもや慣れない語句に戸惑うシオンであった。

全く、機関にはロクな教育者がいない何よりの証拠である。

「では、噛み砕いて説明しよう。つまり、君は358Daysの中盤でこのように言えば良かったのだ」


『不調によりキーブレードが使えない』

『だから、心身が回復するまで休暇を与えて欲しい』

『え?ダスクにする?そんなことをしたら今度はロクサスに負担が掛かりすぎて、ロクサスが倒れかねないのでは?』

『え?それでも構わない?そうなったら困るのはあなた方ですよ?』

『それならロクサスも誘って機関から抜けた方が良さそうだ』

『え?そうなったら誰もハートの回収する人が居なくなって困る?』

『そんなことは知らないし、もう勝手にして下さいよ』

『え?機関を抜けるのは止めて欲しい?しかも、お願いだから今まで通りハート回収の任務を頑張って欲しいって?』

『うーん、じゃあ話は戻るけど休暇を与えて欲しい』

『勿論、三食昼寝付きでお願いしますよ!』


「…とな。長くなったが、このように話せば本編でもまた違う展開があったかも知れんな」

「あたし、昼寝なんて別にいらないよ?」

一瞬、ルクソードとシオンの間に微妙な空気が流れた。

「…手厳しい指摘だが、それは言葉のアヤというやつだ。ここで注目して欲しいのは、労働の対価を受け取る権利を主張することに意味があるということだ。」

「権利……」

「君やロクサスがいくらハートの回収を頑張っても、すぐにキングダムハーツが完成して『心を得る』という対価を貰えるわけではない」

「確かに、そうだよね…」

「しかも、不調時にまで働かされたのではただのサービス労働だ。本来であれば、対価の享受を伴うのが労働なのだよ」

「うーん…ルクソードの話って難しい言葉が多いけど、あたしやロクサスが無理して頑張ることが変なことだっていうのはよく分かったよ!」

「ご理解を賜り、誠に光栄だ」

無秩序な狭間の世界で、ストライキが起こるなど有り得ない。

しかし、いつかシオンが心を得て光の世界に戻った時、この知識が彼女の役に立ってくれるだろう。

結果として、労働面におけるシオンの意識改革(?)を見事成し遂げたルクソードであった。

『常識』を学んだ後輩と、弁が立つ自分自身に溜飲が下がる心地である。

嗚呼ああ、今夜は酒が美味い。

「じゃあさ、ルクソード。その『ストライキ』っていうのをやってみようよ!」

ルクソードの酔いが一気に冷めた。

「ゼムナスやサイクスに『あたし達が働かないと困るのはあなた達だよ』って言うの!」

「……何だと?」

「そしたらね、多分だけど『困るからやめて』って言われると思う」

「まあ、それは間違いないだろうが…」

「それでね、これからもちゃんと働く代わりにダスクにするのを二度としないって約束させたり、調子が悪い時は任務を休ませてもらえるように“コウショウ”するの!」

「ウ…ウム」

「そうすれば本編みたいに、あたしもロクサスもアクセルも悩んだり、傷付け合ったりしなくて済むと思う!」

「それはそうだが……」

理想と現実は違うのだよ。

…とルクソードは言いたかったが、やめておいた。

シオンの目がとても輝いているからである。

そう、自分の眼前にいる少女の目は希望に満ちていた。

「ロクサスにこのことを教えてあげたらきっと賛成してくれるよ!アクセルも分かってくれると思う!」

「あ、あぁ……」

「それに、こういうコウショウって、仲間は多い方がゼムナス達も多分断りにくいと思うんだけど、きっとそうだよね?」

「ん?まあ、そうだな」

「そうだよね!あ、ルクソードは機関には何か不満はないの?」

「それは…無いことも無いが……」

「だったらさ、あたしやロクサスと一緒にゼムナス達に“コウショウ”してみようよ!皆でやれば怖くないよ!きっと!」

「……………」

自分がやるべきことを見据えたシオンは、いつになく明るかった。

気を良くしたシオンはパオプジュースを一気に飲み干した。

良い飲みっぷりである。

何だか、えらいことになってきたぞ——。

もしかしたら、自分は目の前の少女にとんでもないことを吹き込んでしまったのではないかと思うルクソードであった。

《終》

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