No.9とNo.12が再び本編を振り返る
ここは存在しなかった世界のビル街に位置する、ちょっと洒落たバー“摩天楼”。
この店の入り口近くにある二人用テーブルに、一人で腰掛けてファッション雑誌のような本を読んでいる黒いコートを着たミュージシャン風の青年がいる。
彼の名はデミックス——ノーバディとは思えない程ノリの軽い男であり、これでも一応ⅩⅢ機関のNo.9である。
ついでに言うと同僚の女性に酒を奢ってもらってもらう(奢らせる?)のに何の責任も感じないような図太い、と言うより無神経な男でもある。
デミックスはグレープフルーツ味酎ハイを飲みながら『2007年:今春の流行ヘア』というコーナーを真剣に読んでいた。
「ほぅ。この春はこーゆう髪型が流行りなのか~」
イメチェンでもしたいのだろうか?
そのとき店の入り口から、一人の金髪の女性が入ってきた。
数日前にデミックスがお世話になった(?)女性である。
「あ、ラクシーヌ!」
彼女の名はラクシーヌ。
デミックスの同僚であり、職場でも女王様気質で名高い女性である。
「あら、奇遇ね。見たところ今日は財布の中身には困っていないようね」
実はこの二人、数日前に些細なことで激しい口論をくり広げた後、なぜか和解し今日に至っている。
昨日の敵は今日の友……とか言うやつだろうか?
「ラクシーヌここに座ったら?席空いてるし、他は満席だし」
ラクシーヌは店内を見渡した。
確かに、今日はいつもよりも客が多い。
カウンターは全てダスクどもに占領されているし、他のテーブルも普段はあまり見ないスナイパー(シグバールの配下ノーバディ)やドラグーン(ザルディンの配下ノーバディ)達で満席になっている。
「じゃあ、そうさせてもらおうかしら」
ラクシーヌはデミックスの向かいに座った。
彼女は注文を聞きにきたウェイター(?)のギャンブラー(ルクソードの配下ノーバディ)にリキュールを注文した。
ウェイター(?)は注文を伝票に書き留めると、店の奥に消えていった。
「ラクシーヌってさ、今日はリキュールなんて飲むの?この前のマティーニといい酒に強いね~?」
「まあ、あんたよりは強いでしょうね」
「俺なんて、酎ハイが限界なのにさぁ~」
「だからヘタレって言われるのよ」
ラクシーヌは吐き捨てるように言った。
「ま~たそういうこと言う……」
「事実じゃないの」
「ラクシーヌさぁ~、本当は乙女なんだからそういう発言は控えた方がいい——」
ギロッ!!!
ラクシーヌが、これでもかというくらいキツい目付きでデミックスのことを睨み付けた。
周りの客(ダスクとか.etc…)は、もはや恒例のようにラクシーヌが放つ殺気に当てられ、そして震え上がっている。
「わ、わかったよ。謝る、謝るからさぁ……」
デミックスがペコペコと頭を下げると、ラクシーヌから殺気が消えていった。
どうでもいいが、他の客たちもこれで一安心だ。
やがてウェイター(?)がラクシーヌのもとへリキュールを運んできた。
ラクシーヌはリキュールをグラス一杯に注ぎ、それを水のように飲んでいる。
「(本当に酒強いんだな…………)」
デミックスは感心しながらラクシーヌがグラスの中身を飲み干す様子を見ていた。
「……あんたが見ているのって、髪型の特集?」
ラクシーヌがデミックスの前に広げられている雑誌を見ながら言った。
「ああ、これ?いや、今年はこんなのが流行るのかな~とか思って」
「男ってそういう髪型に憧れるの?」
「え?どれのこと?」
「あんたやマールーシャの出来損ないみたいな髪型よ」
俺やマールーシャ?
しかも、出来損ない?
「えーっと……ラクシーヌが言ってるのって、ツーブロックとかボブのこと?」
「ボブはわかるけど、何よツーブロックって?」
ラクシーヌは形のいい眉毛をハの字にしている。
「あ、ツーブロックってのは俺みたいにサイドの髪を短く刈り込んでるやつのこと!」
「ふーん……」
ラクシーヌは大して興味が無さそうに再びグラスにリキュールを注いでいる。
「そう言えばさ、ラクシーヌ。機関のメンバーってみんな個性的な髪形してるよね?」
「それは言えてるわね」
「あのさぁ~、俺たちでちょっと他のメンバーの『髪型格付けチェック』してみない?」
「はあ?何よそれ?まさか『女性芸能人格付けチェック』の真似?」
ラクシーヌはため息を吐いた。
全く、この男の発想には毎回ため息を吐かされる。
「なぁ~、やってみようよ。面白そうじゃん?」
「……まあ、いいわよ(渋々)。で、誰の頭から検証するの?」
「えーっと、じゃあ取り敢えずナンバー順で!」
「……てことはゼムナスからね(溜息)」
ヘアNo.1:ゼムナス
「ぶっちゃけ言うとさぁ、まず指導者からして変な頭しているよね~」
「物理的にもかなり無理があるし、しかもロン毛だし。救いようが無いわね」
「でもラスボスの髪型が変なのってRPGの王道じゃん?前作のアンセムもそうだし。いや、あれはゼアノートだっけか(笑)」
「ラスボスの髪型が変なのは私たちのシリーズだけよ」
「そうかなぁ」
ヘアNo.2:シグバール
「俺思うんだけどさ、シグバールの髪型ってそんなに変ってわけでもなくない?」
「何か白いものが混じっているけど?」
「そりゃあ、いくらノーバディでも歳には勝てないって」
「大体にして、シグバールって何歳なのよ?」
「見た目は40過ぎくらい…?いや、もうちょっといってるかな……?」
「それ以前に、ノーバディって歳をとるものなのかしら?」
「確かに……どうなんだろ?」
「一応No.1~6までが機関の初期メンバーだから、少なくともその6人はノーバディになってから10年は経っているはずよ?」
「うーん…10年ねぇ……」
「まあ、ゼムナスやシグバールのことは置いといて、ゼクシオンは大体20歳前後に見えるから、もしノーバディが歳をとるなら、ゼクシオンは10歳くらいのときにノーバディ化したってことになるわよね……」
「いくらゼクシオンが策士だからって、10歳で賢者アンセムの弟子になったってのも……」
「ちょっと考えられないわよね……」
「つまりさ、ノーバディは歳とらないんだよ!多分だけど……」
「取り敢えず、外見年齢が変化することはなさそうね。中身は別として」
「うん、きっとそうだ!……で、何の話してたんだっけ?」
「シグバールの髪型の話よ。あんたが言い出したんでしょう?」
「ああ、そうそう!シグバールって外見年齢が40過ぎの割にはハゲてないよね?」
「でもシグバールみたいなひっつめ頭ってハゲやすいって言うじゃない?」
「ひっつめ頭って?」
「髪を後ろで一ヶ所に束ねてる髪型のことよ」
「ハゲやすいの?その髪型?」
「世間ではそう言われているわ。あくまで一般論だけど……」
「でもさ、ノーバディの外見年齢は変化しないんだから、少なくともシグバールが老化によってハゲるってことはないんじゃない?」
「そうかもしれないわね。取り敢えずシグバールの髪型は機関の中ではまともな部類ってことで……」
「うん。じゃあ次!」
ヘアNo.3:ザルディン
「機関内でもトップクラスに入るおかしな髪型だわ」
「編み込んでるしね……」
「あとモミアゲも変だし」
「どうやってセットしてるんだろ……?」
「ワックスやムースを使っただけじゃ、あの髪型にはならないでしょうね……」
「でもさぁ、ザルディンって槍を6本も宙に浮かせて戦うくらいだし、自分の手を使わなくても空中で髪の毛を編み込むくらい、どうってことないんじゃないの?」
「確かに風属性だし……不可能ではないかもしれないわね」
「そうに決まっているって!じゃなきゃ毎日あんな髪型セット出来ないって!」
「とにかく、ザルディンの髪型は変ってことで……」
ヘアNo.4:ヴィクセン
「機関内で1番気持ち悪い髪型。以上よ」
「いや、気持ち悪いって……。それって単にラクシーヌがヴィクセンのこと嫌いなだけじゃ……?」
「ええ、そうよ。あいつの髪型、目つき、顔つき、言うこと為すこと全てが嫌悪の対象よ。大体何なのよ?あの変態ロン毛科学者。偉そうなこと言って、勝手に暴走して。指導者以上に救いようが無いわ」
「でもさぁ、ヴィクセンの髪ってクセが無くて、しなやかだって噂が……」
「たとえそうでも、私はヴィクセンの髪なんかに触るのは絶対に嫌よ。手が腐っちゃう」
「(そんなにヴィクセンのこと嫌いなんだ……)」
ヘアNo.5:レクセウス
「スポーツマン系……かしら?」
「う~ん、どうだろ…?」
「目立たないけど、普通と言えば普通の髪型よね。少なくともヴィクセンよりは遥かに好感が持てるわ」
「じゃあレクセウスの髪型は比較的普通ってことで……」
「ええ。“静かなる豪傑”らしくね」
ヘアNo.6:ゼクシオン
「ゼクシオンの髪型のポイントは何と言っても……」
「……前髪よね」
「ラクシーヌ的にはさぁ、ゼクシオンの髪型って変?」
「まあ、セット自体は物理的に不可能ではないでしょうけど……でもちょっと無理がある髪型かしら」
「……てことは、少なくとも変ではない?」
ラクシーヌは『うーん』と唸った。
「でも、不思議と違和感はあまり無いわね。ルックスが良いからそう見えるだけかもしれないけど」
「やっぱりラクシーヌから見てもゼクシオンって格好いいの?」
「まあ、好みや性格は別として顔立ちは整っているとは思うわ。だからあの髪型でも違和感なく見えるんじゃないかしら?」
「ゼクシオンも世間じゃかなり人気あるらしいよ?」
「……人気はどうでもいいわ」
「そ、そう………」
何だかんだ言っても、やはりラクシーヌは自分以外の者に人気が集中するのは面白くないらしい。
ヘアNo.7:サイクス
「サイクスか……」
「サイクスね……」
しばらく二人の間に沈黙した空気が流れた。
「私は…物理的にはそうでもないけど、見た目的にはかなり無理がある髪型だと思うわ……」
「サイクス、顔は格好いいのに……」
「勿体ない気が……しないでもないわね」
「キレると手が付けられないけど、普段は冷静だし、声も格好いいのに……」
「サイクスの方が指導者の器って気がしないでもないわ。ただ、髪型だけなら指導者といい勝負だと思う。悪い意味でだけど……」
「それ聞いたらさぁ、サイクスは絶対にバーサク状態になると思うよ……」
ヘアNo.8:アクセル
「よくよく見てみるとさぁ、アクセルって結構髪長いよね?後ろ髪とか……」
「アクセルの髪型は、私は取り敢えず極端に変だということはないと思うわ。ただ……」
「たくさんワックスを使わないと、あの髪型にはならないんだろうね。俺も人のこと言えないけど……」
「あんたもそうだけど、アクセルって戦闘中激しく動いてもヘアスタイルが乱れないわよね?あれってどうなってるの?」
「俺が使ってるのはハードロックとかヘヴィメタ系バンドの人たちが使うような特殊な整髪料だけど?市販のシャンプーじゃ落とせないようなやつね。多分だけど、アクセルも同じようなのを使ってるんじゃないかなぁ」
「ふーん…(そんなのがあるのね……)」
「でもアクセルが髪下ろしたらさぁ、一体どうなるんだろうね」
「それ、私は一見の価値ありだと思うわ」
「多分だけど、カイリちゃんみたいな感じになるんじゃないかなぁ。髪の色も同じだし」
「だとしたら、アクセルって直毛なの?」
「いや、それは知らないけど……」
「私はFF7に登場する某タークスみたいになるじゃないかと思うわ」
「ああ、『アクセルはあの人のノーバディ』説のこと言ってるの?だったら普段のアクセルのツンツンヘアはある程度は自前ってこと?
「自前なのかどうかは知らないけど、重力に逆らいやすい髪質なんじゃないかしら?」
「ところでさ、アクセルって目の下に何か模様があるじゃん?アレって何なの?」
「ペイントでしょ?毎回毎回、自分でメイクしているのはか知らないけど」
「さっきラクシーヌが言った『某タークス』も、目の下に模様あるよね?」
「瞳の色も同じだし……」
「声も同じだし?」
「どうなっているのかしらね……?」
アクセル——髪型を含めて、何かと謎の多い男である。
ヘアNo.9:デミックス
「言うまでもなく、俺の髪型は機関で1番イケて……」
「機関で1番ではないけど、どちらかと言えば“変”な部類に入る髪型ね」
「えっ……俺の頭って変なの?」
「少なくとも、普通ではないと思うわよ」
「う……うっそぉ~ん!」
デミックスがいつか言ったあの決め台詞(?)で喚き出した。
ラクシーヌは呆れ過ぎて、もはや溜め息さえも出なかった。
「大体、機関にミュージシャン系がいること自体がおかしいのよ。個人的な感想だけど、あんたのその髪型…トサカとツーブロックだっけ?…が合体したような頭は機関のコートにマッチしていないと思うわ」
「…てことは、機関のコートさえ着ていなければ俺の頭はイケてるってこと?」
「そうとも限らないんじゃないかしら?」
「うっそぉ~ん…(涙)」
ヘアNo.10:ルクソード
「今度はルクソードか……」
「ルクソードの髪型って、機関で1番まともなんじゃないかしら。センスも悪くないと思うわ」
「確かに……俺もそれは言えてると思う」
「性格も紳士だしね。この前一緒に飲んだときも奢ってもらっちゃったし」
「『奢らせた』の間違いじゃないの?」
「……失礼ね。『女性に代金を払わせるわけにはいかない』って言われて、結局奢ってもらう形になったのよ。誰かさんとは大違いね」
「誰かさんって……俺のこと?」
「あんただとは言っていないでしょ?」
「(絶対に俺のことだ……)」
疑心暗鬼になるデミックス。
実は自分の無神経さにコンプレックスがあったのだろうか?
「髪型には関係ないけど、ルクソードの声って某FF7のコンピレーション作品の大ボスと同じなのよね」
「ああ、『純白の帝王』って呼ばれてる人のこと?」
「まあ、声は同じでも性格の方はルクソードとは似ても似つかないわね。『純白の帝王』は殺人狂だしね」
「二刀流で瞬間移動までするし?」
「頭の中(?)はヴィクセンだし……」
「見た目は格好いいのにね~(苦笑)」
ヘアNo.11:マールーシャ
「俺さぁ、一つだけ疑問があるんだけど……」
「何よ?」
「キングダムハーツⅡのOPムービーにさ、マールーシャが出てくるじゃん?」
「ええ、そうね(私も出演したかった……)」
「あのムービーのマールーシャと、普段のマールーシャってさぁ、髪の色が微妙に違くない?」
「言われてみれば…確かに……」
「世間じゃピンク頭ピンク頭って言われてるけど、あのムービーを見た限りじゃマールーシャの髪って、至って普通な茶色だよね?」
「光の当たり具合によって変わるんじゃないかしら?」
「確かにマールーシャの髪型って段切りだし、角度によって見え方は変わるかもしれないけど……」
「……謎ね。アクセルの髪と同じくらい謎だわ」
どうでもいいことだが、アクセルとマールーシャの髪質の“謎”は種類が違っていないだろうか?
「じゃ、肝心のマールーシャの髪型だけど……」
「物理的にセット不可能な髪型ではないと思うわ。時間は掛かるでしょうけどね……」
「確かに、いちいち髪の毛の束を作るのは面倒そうだなぁ……」
「見た目は……どうなのかしら。ちょっと判断に困るわね」
「髪の色は別にして、現実世界にもマールーシャみたいな髪型の人って結構いるよね?」
「でも…実際は似合っていないことが多いわ。何だかそういう勘違い男に限ってやたら香水臭かったりするし…。電車で隣にそういう男が来ると最悪ね」
「で、肝心のマールーシャは?」
「まあ、ゼクシオンの所でも言ったけど性格と好みは別として、ちょっと変わった髪型をしているけど、ルックスは良いから違和感なく見える……かしら?」
「マールーシャって余裕たっぷり貫禄があるのに、なぜか世間ではナルシスト呼ばわりされてるよね?」
「漫画版でいちいち薔薇を持って登場していたからじゃないかしら?」
「それともアクセルに『花びら先生』って言われたから……?」
「それ以前に属性が『花』ってどうかしら?ちょっと有り得ないわよね」
「武器とか戦闘シーンは格好いいのにね……」
「勿体ないわね。サイクス以上に……」
※マールーシャは忘却の城の管理責任者であり、機関内でもかなりの実力者です。実際には世間で言われているほど情けない男ではありません。
ヘアNo.12:ラクシーヌ
「私は……至って普通よ」
「その触角さえ無ければね……」
「触角ですって?それは聞き捨てならないわね」
「だって、それ以外に言い方が……」
「これはただハネているだけよ。今度触角とか言ったら…あんたの舌をナイフで切り取って二度と喋れなくしてやるわ」
「わ、わかったよ…(て言うか、舌を切り取られたら人って死んじゃうんだぞ…?)」
デミックスよ。君はノーバディだから舌を切り取られたくらいでは死……いや、消滅したりはしないと思うぞ。安心したまえ。(どこからか指導者談)
「ところでさぁ、ラクシーヌは髪下ろさないの?」
「……嫌よ」
「どーして?髪下ろした方が可愛いと思うんだけど……」
「…FF7に登場する某タークスの新人と髪型が被るからよ」
「ああ、あの金髪の若い子?確か『イリーナ』って名前だっけ?もしかして、ラクシーヌってあの子のノーバディ?」
「……………」
ラクシーヌは無言だった。
「あ、確かにラクシーヌの名前のスペル『Larxene』から 機関のメンバーの証である“X”の文字を取って、残りの文字を並び換えたらあの子の名前になりそう……て言うか、なるよね!」
「……………」
ラクシーヌは相変わらず無言だった。
「へぇ~。ラクシーヌってあの子のノーバディだったんだ?確かに似てるよね?年齢も同じくらいだし」
「……………」
「でも瞳の色は違うよね?ラクシーヌは緑色だけど、あの子は赤色だし。ああ、ノーバディになることで瞳の色が変化したってこと?まあ、ノーバディはオリジナルとは少し見た目が異なるからなぁ~」
「……………」
とにかくラクシーヌは無言だった。
「でもラクシーヌ、どうしてノーバディになっちゃったの?職場が嫌だったとか?でも某タークスってあのFF7の世界では超王手企業のエリート集団でしょ?給料だって俺たちの機関よりも遥かに良いはずなに……」
なぜかラクシーヌはひたすら無言を貫いていた。
「でも、ラクシーヌって性格の方はあの子とあまり似てないよね~?あの子は頑張り屋で一途で、ラクシーヌとはまるで正反対——」
ヒュッ
ラクシーヌが投げたナイフがデミックスのこめかみを掠めた。
デミックスの髪の毛が何本かパラパラとテーブルに落ちた。
「今は髪型の話をしていたはずでしょ?……と言うより、私の話はもういいわ」
「えっ、でも……」
「舌を、切り取られたいのかしら?」
デミックスは心底縮み上がった。
ラクシーヌは今まででも最上級の殺気を放っていた。
いつものように怒った顔ではなく、無表情なのが逆に怖い。
周囲の客……ダスク共は言うまでもなく、スナイパーやドラグーンなどの上級ノーバディですらラクシーヌの殺気に当てられ、情けないことに失禁(?)または失神(?)しているヤツまでいる。
「わ、わかった!次いこう、次!次で終わりだし……ね?」
デミックスの必死の懇願(命乞い?)が功を奏したのか、ラクシーヌはナイフを懐に収めた。
夫婦喧嘩じゃあるまいし、一体なんだ、この構図は。
ヘアNo.13:ロクサス
「ロクサスは老若男女を問わず大人気らしいよ」
「……そのようね」
「で、そのロクサスの髪型だけど……」
「物理的には十分セット可能な髪型ね。セット自体は少し面倒かもしれないけど、機関内ではかなり良い線いっていると思うわ」
「でもロクサスの髪の長さって、実はソラと同じらしいよ?」
「そうなの?」
「そうそう。キングダムハーツⅡのアルティマニアでさ、野村ディレクターが明言しているから間違いないよ。まあ、見た目的には信じられないけどね……」
「でも髪型という点だけを見るなら、ソラよりもロクサスの方が見た目的にはまともなんじゃないかしら?」
「確かに、ロクサスの髪型の方が現実的だけど……そんなこと言ったらソラファンの人たちに悪いよ?」
「じゃあ、あんたは現実にソラの髪型をしている男を見たら、そいつのことを変だとは思わないの?」
「そ、それは……」
「……まあ、いいわ。取り敢えず13人分の髪型検証は終わったことだし、そろそろ順位付けといこうかしら?」
「うん。じゃあ、お互いに髪型がまともな順に順位付けして、それ見せ合うってことで!」
「まともな順ね……。分かったわ」
デミックスとラクシーヌはテーブルに備え付けられていたメモ用紙をそれぞれ1枚ずつ取り、一心不乱に順位付けをし始めた。
これまたどうでも良いことだが、二人ともマジ顔になっている。
そして数分後———。
独断と偏見に基づく格付け
「出~来た!!」
「私も出来たわ」
「じゃあ、どっちから見せる?」
「私はどっちからでもいいけど?」
「じゃあ、取り敢えず俺の方から!!」
デミックスは自分のメモ用紙をテーブルに広げた。
機関の髪型:まともな(イケてる)順
①:俺(デミックス)
②:ルクソード
③:ロクサス
④:レクセウス
⑤:シグバール
⑥:ラクシーヌ
⑦:アクセル
⑧:マールーシャ
⑨:ゼクシオン
⑩:ヴィクセン
⑪:サイクス
⑫:ゼムナス
⑬:ザルディン
「どお?」
「……1つだけ不可解な部分があるわ」
「え……何?」
「あんたが1番っていうのは、どう考えても納得がいかないわ……」
「……え?さっきも言ったけどさ、どう考えたって俺の髪型は機関内で1番イケて……」
「……あんた、寝言は寝て言いなさいよ?」
「ね、寝言って……(困)。そういうラクシーヌはどうなのさ?」
「私はちゃんと格付けしたわよ。見る?」
ラクシーヌは自分のメモ用紙をテーブルに広げた。
機関の髪型:まともな順
①:ルクソード
同率②位;ロクサス&自分(ラクシーヌ)
④:レクセウス
⑤:シグバール
⑥:アクセル
同率⑦位:ゼクシオン&マールーシャ
⑨位:デミックス
同率⑩位:ゼムナス&サイクス
⑫:ザルディン
論外:ヴィクセン
「……あの~、『論外』って何ですか?」
「文字通り、順位を与えられる価値すら無いってことよ」
「ラクシーヌさぁ、いくらヴィクセンのことが嫌いだからってそれはあんまりなんじゃ……」
「“嫌い”だとかじゃなくて、私はヴィクセンが存在すること自体に意味が無いと思っているだけよ……」
「(まさに非情の妖姫だ……)」
「文句あるわけ?」
「いや、無いけど……じゃあ、ヴィクセンのことを抜きにしてもさ、ラクシーヌがロクサスと同率2位ってのはどうかと思うけど?」
「だから、私の髪型は普通だって言ったじゃないの?」
「(文句言ったらまたナイフとか投げられそうだしなぁ~……)」
「何か言いたそうね?」
「じゃあさ、俺が9位ってのはどーゆーこと?少なくとも、ゼクシオンとかマールーシャよりはイケてると思うんだけど……?」
「だってあんた、機関のNo.9でしょ?丁度いいじゃない?」
「なっ……丁度いいじゃないって……!!」
「男のくせにイチイチうるさいわね。だって変じゃない、あんたの髪型」
「へ、変………」
「だから言ったでしょ?あんたの髪型は機関内でも変な部類に入るって」
「うっそぉ~ん……!!」
「さて、今日はこのあたりでお開きね。ここまで読んでくれた人たち、御苦労さま……(疲)」
機関の人たちの髪型、あなたならどう思いますか?
《終》
コメント