No.8とNo.11が本編を振り返る
ここは存在しなかった世界のビル街に位置する、ちょっと洒落たバー“摩天楼”。
その店の奥のカウンターに黒いコートを着た男が二人座っている。
「なぁ、やっぱり男なら焼酎だろ?」
「おまえは何も分かっていないようだな。私のローズティーに勝る飲み物など存在しない」
「そんなもの、紅茶にバラを突っ込んだだけじゃねぇか。大体、バーに来てまでそんなもの飲むなっての。酒飲めよ、酒」
「おまえこそ居酒屋ではなくバーに来てまで焼酎を飲むな。シグバールやザルディンのようなオッサンでも飲まんぞ、そんなもの。せめて洋酒にしたらどうだ?」
「安上がりな紅茶に満足しちまうようなヤツに言われたくねぇなぁ?」
「私は酒を飲まない主義だ。健康に良くないからな」
「ほぉ、ノーバディのくせして健康第一ってやつか?おいおい、本当に楽しいぜ?」
「似合わん台詞だな」
機関のNo.8・アクセルと、機関のNo.11・マールーシャが何やら議論(口論?)している。
この2人、本編中では仲間割れしていたものの、プライベートでは一緒にバーへと出入りする仲らしい。
「全く、おまえがCOM編で余計なことをしなければ、キーブレードの勇者は私のしもべに変わったというのに……」
「俺はやりたくなかったけど、ストーリーの都合上仕方なかったしな……」
「結局、おまえは何がしたかったのだ?」
「機関の名においてあんたの存在、終わらせたかっただけだ」
「本当に似合わん台詞だな」
「もう一遍言ってみたくてよ」
アクセルはコップ一杯分の焼酎を豪快に一気飲みし、マールーシャはバラ入りの紅茶を音も無く飲んでいる。
「ウィ~……」
「下品な声を出すな。そして一気飲みは控えろ。アルコール中毒になるぞ?」
「ご丁寧に心配ってか?お互いに人を心配する心は無いだろ?」
「本編中の台詞ばかり使うな。誰も望まない結末になるぞ?」
「そっちこそ。そんな風にけしかけたら、俺は本気であんたを消しにかかるぜ?」
「ほう?このサイトの管理人はこのバーを私に任せた。この場で私に逆らうならば、この文章を読んでいる閲覧者への反逆とみなす」
「反逆者は消す。そういう掟だったが、今は関係ないだろ?大体あんた、いつこのバーを任されたんだよ?」
「中途半端な役立たずもいらん」
「質問に答えろっての。しかも、それって確かラクシーヌの台詞だろ?」
「……実はだな、私を反省会シリーズに出演させてくれという読者からの要望が多いため、今回に限りこのバーの管理を任された、というくだりだ」
「バーの管理より忘却の城を管理しろよ。仮にもあんた、忘却の城の管理責任者だろーがよ?」
「あんなに広い城を機関員6人だけで管理しろと言われた私の身にもなってみろ。いくら私が有能でも限界というものがある。それから『仮にも』は余計だ」
「ダスク共も働かせりゃいいじゃねぇか」
「忘却の城に一匹でもダスクがいたか?アクセル、おまえの提案が実現不可能なのは明白な事実だ。これ以上、読者たちを失望させるな」
「失望だぁ?図に乗んな。機関においてあんたのナンバーは11だ。ナンバー8の俺があんたごときに……」
マールーシャが何処からか取り出した大鎌をアクセルに向けた。
このマールーシャという男、意外と短気なのかもしれない。
「おいおい、物騒だな?」
「今度はヴィクセンの真似か?先程も言ったが、このサイト管理人はこのバーを私に任せた。この場でこれ以上私に逆らうならば、おまえに死の宣告をしてやってもいいのだぞ?」
「職権濫用か?イヤミな上司は嫌われるぜ?あれ、見てみな」
アクセルが指差した先には、大鎌を手に握っているマールーシャを睨み付けている(?)店長のソーサラーがいた。
ソーサラーは『暴れるなら店の外でやってくれ』というジェスチャーをしている。
「フッ……仕方あるまい」
マールーシャの大鎌が赤い薔薇の花びらとなって消えた。
「ところでよぉ、マールーシャ。キングダムハーツⅡのFM+版はもうプレイしたか?」
「既にクリア済みだ。それにしても強化版の機関員は強いな。シグバールやラクシーヌと初めて対戦したときは、戦闘開始から10秒程で敗北したな……」
「俺なんか、ザルディン相手に少なくとも10回は殺されたぜ?」
「10回は敗けすぎた」
「開始10秒でやられたようなヤツに言われたかないね」
しばらく、二人とも沈黙。
「強化版のおまえなど、単に床から受けるダメージ量が増えていただけではないか。全く以て芸が無いな?」
「あんたの死の宣告とやらもレベル99で挑めば何の問題も無ぇじゃねぇかよ。しかも終盤で出してくるサメやストーカーみてーな攻撃も簡単に躱せるしな。芸が無いのはあんたの方だろ、マールーシャ?」
「いつから私の攻撃の避け方に気付いていた?」
「犬やアヒルを囮にしていればあんなのすぐ気付くっての」
「フ……私の攻撃を避けるタイミングをつかむために、仲間達を犠牲にしてみせたのか。最低だな」
「偽善者ぶってんじゃねぇよ」
アクセルは焼酎をラッパ飲みし、マールーシャはローズティーを飲み干し溜め息を吐いた。
何だかんだ言って、この2人はFM+で追加されたボス戦を楽しんでいるらしい。
配下ノーバディの尻ぬぐい
「………おぉ?」
「………むぅ?」
「あれ……誰だ?」
アクセルとマールーシャの視線の先に、モップを持って床掃除をしている黒コートの人物——いや、少年がいた。
「何だ、あいつ。店の中だってのにフードなんか被ってんぞ?変質者か?」
「背格好を見れば分かるだろう?おまえは親友を変質者扱いするのか?」
「俺の親友はロクサスであって、変質者ではないんだがなぁ(笑)」
「(こいつには本当に人を信じる心が無いのか?まあ、私も人のことを言えんが……)」
フードを被っている少年は、アクセルに冷たい視線を向けながらモップがけをしている。
しかし、アクセルはその少年からの冷たい視線などお構いなしに辛辣な言葉を言い放つ。
「おーい、そこのおまえ!せめて屋内ではフードくらい取れって!機関の名が廃るからよ。記憶したかー!?」
「そのくらいにしておけ、アクセル。彼とて好きでモップがけしているわけではないのだろう。察してやれ」
「ハッ、あんたやっぱり甘いな?紳士気取りか?似合ねぇぜ?」
「以前、この店でデミックスとサムライ達が揉めた事はおまえも知っているだろう?彼はその責任を取ってタダ働きさせられているのだ」
「何でアイツが責任を取らされてんだ?」
「サムライは彼の配下ノーバディだからな。部下たちの監督不行き届きの罰といったところだろう」
「はいはい、そういうことね。でもよぉ、店の中でまで顔を隠す意味は無いだろう?変質者じゃないなら、ただの馬鹿だな。記憶したか?」
「おまえが言う所の『屋内で顔を隠す馬鹿』(※忘却の城でのマールーシャ初登場シーン参照)には、私も含まれているのか?」
「さぁな?馬鹿じゃなくても分かると思うがな?」
ガタッ
アクセルとマールーシャが同時にカウンター席から立ち上がった。
「……Re:COMでの決着を付ける時が来たようだな?」
「ほぉ?記憶してるか?『裏切り者(馬鹿)は始末せよ』。そうさせてもらうぜ、マールーシャ」
「おまえは、今度こそ私の裁きを受け入れるのだな?」
アクセルとマールーシャは店長のソーサラーに「支払いはツケでな」と言い残し、バーの外へと出ていった。
黒服の少年は、マールーシャが床を歩くたびに(意図的に?)撒き散らされていった花びらを掃除しながらこう思った。
あいつらが憎くてたまらない!!…と。
ややあって、店の外からアクセルとマールーシャの騒々しい声が聞こえてきた。
『真実に背を向ける弱いノーバディ…ならば私の敵ではない!!!』
『来いよ、俺が消してやる!!!』
モップがけをしている機関の少年——ロクサスは溜め息を吐いた。
「いくら何でも、本編の台詞ばかり使いすぎだろ……」
ロクサスの独り言など露知らず、外の二人は本気で戦っているようだ。
『裁きを受けるのだな!!!!』
『炎に焼かれろ!!!!』
『悲鳴をあげろ!!!!』
『まだ終わらんぜ!!!!』
『真の恐怖はこれからだ!!!!』
『その身に刻め!!!!』
『光り無き忘却に沈め!!!!』
……
…………
『敵に回すとたまんねぇな、この野郎……!!!』
『これが“おどる火の風”の力か……!!!』
…………
………………………
「……そう言えば、アクセルとマールーシャだったらどっちの方が強いんだろ?」
別にどちらの方が強くて、どちらの方があの煩い勝負に勝とうが、自分にとっては大して興味の無い話である。
だが、外で騒いでいる二人の末路自体は妙に気になるロクサスであった。
「それよりも俺、いつまでこうやってモップがけしてればいいんだろ……」
ロクサスの憂鬱な一日はまだ終わりそうにない。
《終》
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