No.9とNo.13が本編を振り返る
ここは存在しなかった世界のビル街に位置する、ちょっと洒落たバー“摩天楼”。
この店の入り口近くにある二人用テーブルの椅子に、一人の男が腰掛けてファッション雑誌のような本を読んでいる。
黒いコートを着たミュージシャン風の青年なのだが、彼の名はデミックスという。
ノーバディとは思えない程ノリの軽い男であり、これでも一応ⅩⅢ機関のNo.9である。
この日、デミックスは特別ゲスト(?)の到着を待っていた。
カランカランというドアの音が鳴り、黒いコートを着た栗色の髪をした少年が店の中に入ってきた。
「あ、ロクサス!こっちこっち!」
『ロクサス』と呼ばれた栗色髪の少年は、デミックスの向かいの席に座った。
「ごめん、デミックス。俺『機関の反省会シリーズ』初出演で結構緊張しているんだけど……」
「まあまあ、そんなこと言わないでさ~。オレンジ味酎ハイでもぐぃ~っと」
「俺、未成年なんだけど?」
「ここ酒場なんだし、そんな堅いこと言わないでさぁ~。そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」
「悪いけど、俺にとって“大切な女の子”は限定されているから別にいいよ。…って言うよりも俺、酒なんて飲めないし、興味ないしな」
「そ、そう?(ロクサス、機嫌悪いのかな……?)」
「ところでさ、デミックス。『相談したいことがあるから今日の任務終了後にこのバーに来て』って言って俺をここに呼んだんだろ?何だよ、相談って?」
「ああ、そうだったロクサス!ちょっと前に俺とラクシーヌで『機関の髪型格付けチェック』ってのをやったんだけどさ、ラクシーヌが意味不明な順位付けしやがってさ~」
「はぁ?何だよ?意味不明って?」
「取り敢えず、それはこのメモ用紙の内容を見れば分かる!」
デミックスはコートのポケットからクシャクシャのメモ用紙を取出し、それをテーブルに広げた。
機関の髪型:まともな順(ラクシーヌ筆)
①:ルクソード
同率②位:ロクサス&自分(ラクシーヌ)
④:レクセウス
⑤:シグバール
⑥:アクセル
同率⑦位:ゼクシオン&マールーシャ
⑨位:デミックス
同率⑩位:ゼムナス&サイクス
⑫:ザルディン
論外:ヴィクセン
ロクサスは無表情なまま、ラクシーヌが順位付けしたメモ用紙を見つめている。
何か言いたそうにしているが、何も言いたくなさそうにも見える。
「なぁ~?どこからどうみても意味不明だろ?」
「確かに…この『論外』ってのはちょっと意味が分からないかな……」
「あ、それはラクシーヌが単にヴィクセンのことが嫌いだからみたいだよ」
「ふーん。あと俺とラクシーヌが同率2位になってるのも気になるけど……」
「ラクシーヌは自分の髪型に対して『自分は普通よ』とか言ったんだよ?信じられないよな~?」
「でもラクシーヌの髪型って少なくともデミックスよりは普通だと思うけど?」
「え…ロクサス。それマジで言っているの?」
「…ごめん。大マジ」
「う、う、う…………」
何やらデミックスの肩がワナワナと震えている。
何やら例の“決め台詞”を大声で叫びそうな勢いである。
「うっっッそぉぉォ~ん!!!!」
そして案の定。
バーの入り口近くの二人用テーブルで“決め台詞”を叫ぶ男・デミックス。(※ちなみに2回目)
「“うっそぉ~ん”って………(そんなにショックだったのかな?)」
「ひどいよロクサス!!いくら自分の髪型が上位にランクインしているからっていくら何でも俺がラクシーヌの頭より変だってことはないだろ!?」
「デミックスとラクシーヌだったら、ラクシーヌの髪型の方がまともだと思うんだけどな……」
「そ、そんな……」
本音を隠さずに話す後輩の言葉にデミックスは落胆した。
これでは先輩の面子もあったもんじゃない。
ウザい先輩は嫌われる
「それとさ、デミックス」
「……何?」
ロクサスに言われたことがよほどショックだったのか、不貞腐れ気味のデミックス。
いい歳して子供か、お前は。
「今週ついに『キングダムハーツⅡ FM+』が発売になるよな?」
「ああ、あれね。俺たちが英語であれこれ話すやつね」
「そうそう。忘却の城でのCOM編も収録されているやつな」
「別に俺、COMには出演していないから興味ないしぃ~」
「じゃあCOM編はともかくさ、Ⅱの本編でデミックスが“うっそぉ~ん”って言うシーン、FM+版だと何て言い方になるの?」
「それは……」
「まさか“Oh no~!!”とか言ったりしないよな?」
「心が命じたことは……誰も止められない!」
「リクの名台詞で話をそらすなよ。デミックスさ、もし本当に“Oh no~!!”とか言ったら、それこそヘタレ街道まっしぐらだよ?」
「はは、甘いよロクサス」
「……?どういうこと?」
「俺には“あの”迷シーンの直前に、“例の”名シーンが控えている!!」
「“あの”シーンとか“例の”シーンとか言われても、よく分からないんだけど……?」
「“黙れ、裏切り者”って言うシーンだよ!気付いてくれたっていいじゃないか!?」
「デミックス、そんなこと本編中で言ってたっけ?」
「言ってるよ!大体『裏切り者』ってロクサスのことなんだぞ!?」
「ああ、思い出した。ソラがさり気なくビビッてたシーンか。あれ英語で言うとどうなるの?」
「いや、それはFM+のフタを開けてみないことには分からないけど……」
「(結局分からないのかよ……)」
「でもさぁ、今回のFM+って追加要素が沢山あるみたいだよね~」
「まあ、そうだな。FM+で俺に関するシーンが沢山追加されているのは嬉しいな。俺とソラとの決闘シーンとか……」
「ずるいよなぁ~。ロクサスばっかりさ……」
「でも、ⅩⅢ機関関係のイベントも色々追加されているって噂じゃないか。だったら、別に落ち込むことないんじゃ……?」
「そうは言ってもさぁ、俺はストーリー中盤でソラにやられてしまうから出番が少ないんだよ!ルクソードとかサイクスがアクセルについてあれこれ格好いいこと言っているってのに、俺はPVにもCMにも出演してないし!!」
「いや、だからって俺に怒鳴るなよ……」
「何だよ、ロクサスばっか贔屓されてさ!!ちゃんと俺、ヘラクレスの世界で仲間のこと気に掛けてソラに『帰ってこいよ~』って言ったのに、ストーリー中盤で消滅ってどーゆーことだよ!?この裏切り者!!!」
ロクサスはデミックスのことを少しだけ睨み付けた後、静かに席を立った。
その目には怒りを通り越して、もはや呆れているようだった。
「え……ロクサス?」
「相談って何のことかと思って、勇気出してこんな慣れないバーに来てやったのに、さっきから聞いていればデミックスの愚痴ばかりじゃないか。冗談のつもりかどうかは知らないけど、つまらないんだよ……」
「あ…いや……」
「俺、水しか飲んでないから代金はいいよな?」
「あ、ああ……」
「じゃあな。俺、デミックスのこと見損なったよ」
冷たい言葉を吐き出し、ロクサスは店から早々と出ていった。
「確かに…調子に乗り過ぎたかなぁ…?」
気が付くと、デミックスは客のサムライ(ロクサスの配下ノーバディ)達に囲まれていた。
それはまさに、酒場で因縁を吹っ掛ける構図そのものだった。
「え…何かな、君たち……?(嫌な予感)」
サムライ達は皆、殺気をプンプンと漂わせている。
“よくも我らの主人をコケにしてくれたな?”
“貴様程度の存在、我らが持つ刃の錆にしてくれるわ”
“この不届き者め、覚悟せい!!”
…みたいな視線でデミックスのことを凝視している。
「くっ……(どうしてロクサスの配下ノーバディはこんなに忠誠心が厚いんだ?ロクサスとソラの一騎打ちシーンでもあの犬とアヒルを足止めしてやったり…!!心なんて無いくせに……!!)」
サムライ達は皆、今にも暴発しそうな感じだ。
“心が無いのは貴様も同じだろう!?”
“大人しくしていれば痛みを感じることなく逝かせてくれよう!!”
…みたいな表情(?)で、デミックスの四方八方を取り囲んでいる。
「一般ノーバディ(?)が、ⅩⅢ機関のNo.9である俺に勝てるとでも思っているのか~い!?」
デミックスとしては雑魚敵ノーバディに負けるはずがないと言いたいらしい。
テーブルから立ち上がり、シタールを構えたデミックスにサムライ達が一斉に斬り掛かった。
「今日は存分に舞い踊れ、水たちぃ~!!」
その夜、バー“摩天楼”の店内は滅茶苦茶になったという。
この乱闘騒ぎによって、デミックスは出入り禁止になったのだとか。
《終》
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