光と闇の勇者が本編を振り返る
某デスティニーアイランドの本島で人気を博している、お洒落なカフェ『パオプ』。
そのカフェのテーブル席に二人の少年が座っている。
彼らの名前はソラとリク。
伝説の鍵『キーブレード』に選ばれた勇者であり、世界を救った英雄である。
……表向きは、であるが。
「あ~疲れた。もうすぐ夏休みなのに学校の補習なんてやってられないよ~……なぁ、リク?」
「仕方ないだろ。1年以上も学校を休んでいた俺たちが文句を言える立場じゃない」
「そうだけどさぁ~…」
実はこの二人、ⅩⅢ機関を倒して故郷に帰還した後、学校での補習や鬼のように出される宿題に四苦八苦していた。
「あ~…たまにはカイリとゆっくりデートしたいよ……」
ソラがパオプ果汁100%のジュースを飲みながら愚痴をこぼす。
ちなみにこの100%パオプジュースは、異性と二人で一緒に飲むと、その相手と必ず結ばれる……らしい。
「さぁ、ソラ。反省会をするぞ」
「はぁ?反省会?」
「俺とおまえで、本編での行動を振り返るんだよ。このサイトではお馴染みのアレだ」
「えっ?それって機関の奴ら限定じゃ……?」
「機関以外のキャラでも反省会をやってほしいって要望があったらしい」
「えー…そんなことをするために俺呼ばれたのかよー……」
100%パオプジュースを飲みながら不貞腐れるソラ。
カフェでリクと反省会をするくらいなら、カイリとデートがしたくてたまらないといった所だろうか。
「本編の反省会って言ったって…俺たちはアンセム(ゼアノートのハートレス)を倒したり、ⅩⅢ機関と戦ったりとか……まぁそんなものでしょ」
「何を言ってるんだ?反省すべき点は他にも色々とあるだろう?」
「他にもって…例えば?」
「カイリに『俺はいつでも傍にいるよ!』とか言っておきながら、ナミネには妙に優しかったりとか」
ブッ
ソラが口から100%パオプジュースを吹き出した。
「全く、罪な奴だな」
「ちっ…違うって!!あれはストーリーの都合で…!!」
「忘却の城でのことをカイリが知ったら何て言うかな?」
「ちょっと待てよリク!!俺自身は忘却の城のことなんて全然覚えていないんだぞ!!?」
「ストーリーの都合上ではそうだな。でも、そこが一番タチの悪いところだ。忘却の城での出来事を都合良く綺麗サッパリと忘れてしまうなんてな」
「そ、そんな……」
棘のあるリクの指摘を受けて、ソラは二の句が継げなくなった。
忘却の城での事情はどうあれ、一応事実は事実なのだ。
「主人公なのにだらしないぞ、ソラ」
「だ…だってさぁ、それは機関の奴らが悪いからであって……」
「その点については否定しない。でも、おまえに責任が全く無いとも言えないな」
「だからさぁ、マールーシャやラクシーヌ(だったっけ?)がナミネに酷い事ばっかりするから俺は……」
「少なくとも、このサイトでは『ナミネに酷い事ばっかりするマールーシャやラクシーヌ』の方がおまえより人気があるんだぞ?」
「……嘘だ!!そんなの嘘に決まってる!!!」
「いや、事実だ」
「何言ってるんだリク!!あいつらは機関の悪者なんだぞ!!?」
実際のところ、ソラはマールーシャとラクシーヌのことなんて名前くらいしか覚えてなかった。
どんな顔で、どんな性格で、どんな悪行を働いたのかまでは全く記憶にない。
それはナミネの記憶操作能力による影響なのだが、まさかその点をリクから突っ込まれるとは夢にも思わなかった。
ソラの額に、嫌な汗が浮かんでいる。
「今はな、悪者の方が人気のある時代なんだ。それに最近じゃ機関の奴らは悪党じゃないって言い張るユーザーまでいる。このサイトの管理人も、実は機関支持者らしいしな」
「リク……それじゃあまるで、俺たちの方が悪者みたいじゃないか」
「まあ…な。しかも、おまえは存在しなかった世界でゼムナスとタイマンを張る前に——
『存在しない者、ノーバディ!!おまえは何も悲しんでいない!!!』
——とか言っただろう?あの一言で、おまえは多くのノーバディファンを敵に回すことになったんだ」
「いや、あれはゼムナスが相手だからそう言っただけで……」
「たとえそうでも、ユーザーは快く思わなかったんだよ。あの一言のせいで、ロクサス・ナミネ・アクセルのファンたちの心は深く傷ついた。おまえが思っている以上にな」
「な、何だって……!?」
「しかも、最近じゃゼムナスは実は友達思いの良い奴だったんじゃないかという説まで出ている。おかげでこのサイトでもノーバディを擁護する声が高まっている。これはつまり……」
リクの眉間に皺が寄る。
ソラには、リクが次に言うことが何となく想像できた。
「このままじゃ……おまえは主人公降格だ」
一気にソラの顔が真っ青になる。
確かに、キングダムハーツ2での自分の言動・行動はちょっとやりすぎてしまった感があったとは内心思っていた。
「実際問題、358daysの発売後はロクサスやシオンの小説を書いてくれという意見が寄せられるばかりだ。それくらいノーバディの人気は根強いってわけだ」
「ちょっと待てよリク……シオンって誰だよ?」
「358daysで登場した新キャラだ。まあシオンのことを考えると……ソラ、おまえは本当に女泣かせ奴だな」
「ちょっと待て…待て待て待て!!!!俺は忘却の城での出来事の後、ただ寝ていただけなんだぞ!!!?それなのに、どうして俺が女泣かせ呼ばわりされるんだよ!!!!?」
「さあな。管理人が358daysをプレイした結果、そういった印象をソラに対して抱くようになったらしい。取り敢えず、ロクサスやシオンがあれこれ切ない思いをするハメになったのは、ある意味ソラのせいだってことは間違いないな」
「俺……何もしてないのに……」
「このままじゃキングダムハーツ3の主人公はソラになるかどうかも怪しいな」
根拠のない世論調査の結果にうなだれるソラ。
2009年7月現在の政治家たちも、もしかしたら同じような心境なのかもしれない。
リクの複雑な心境
「リク…さっきから俺にダメ出ししているけど、リクはどうなんだよ?リクの人気って実際は……」
「俺はな、ソラ。忘れたのか?おまえほど不人気じゃないんだよ」
「……言ったな!?」
ああ言えば、こう言う。
キングダムハーツ2の終盤を彷彿とさせるやり取りを展開する二人であった。
「確かにKHシリーズを通して俺は損な役回りが多い。そうだな…セリフ例を挙げると……」
『真面目にイカダを作ってるのは俺だけだ』
『おまえが遊んでいる間に俺はカイリを見つけたぞ』
『カイリを頼むぜ』
「……まあ、1作目で言えばこんな所か」
「なぁ、それ自分で言っていて虚しくならないか?」
「いや…ただ…悲しいな……」
「俺、そのセリフ聞いたことある!358daysのPVで言ってたよな?」
「まあな。つまり俺のセリフはクールかつウェットなものが多い。そしてクール&ウェットなキャラクターは人気がある。これはロクサス然りであり、某有名ゲーム7作目の主人公が人気者なのと同じ理屈だ。これが俺とおまえとの決定的な違いだ」
「某有名ゲーム7作目の主人公とか遠回しなこと言わないで、素直にクラウドって言えば良いじゃないか。俺たちのゲームにもゲスト出演しているんだし」
「あのな、この反省会シリーズでは俺たちが主役なんだ。FFのことを前面に出し過ぎるべきじゃない」
「どんな理屈だよ、それ……」
リクに論破されたソラは、所在なさ気に100%パオプジュースを飲んでいる。
どうやら不貞腐れているようだ。
「どうしたソラ。もう終わりか?だらしないな」
「いーよいーよ。俺にはカイリがいるから別にいーよ。確かに、俺はリクとは違って両想いの大切な人と付き合ってるから別にいいもんねー」
「………!!!!」
「ロクサスだって、ナミネやシオンって子とかなりいい感じなんだろ?やっぱり主人公はそうじゃないとなー。リクだってそう思うだろ?」
「(こ、こいつ……!!!!!!!)」
「主人公にはヒロインが必要!…ってね。俺、主人公で良かったなぁ~」
あろうことか、ソラはリクが一番気にしている事を口にしてしまった。
しかも、計算ではなく素で…である。(多分)
「確かに、リクは俺よりも頭が良いし、背も高いし、筋肉質だし、格好良いセリフが多いよな。それは認めるよ。でもさ、本編でのリクっていつも孤独だよな?俺と違って」
「(……俺が孤独だと?)」
「リクってさー、俺とカイリと王様以外に友達いるの?」
「(そ、それは………)」
「俺はさ、色んな世界に行って、色んな人たちに出会って友達もたくさん出来た。だから俺は孤独じゃないし、寂しくもない。でも、リクはそうじゃないよな?リクは本編じゃ、いつだって一人ぼっちだったもんなー」
裏表のないソラの言葉が、リクの心に徐々にだが確実にダメージを与えていく。
リクは反論できないだけに、とても歯痒い思いを味わっていた。
「(孤独……俺がソラよりも孤独だっていうのか!!?)」
(本編の中に限れば)
「(………!!?)」
どこからともなく、某闇マニアの声がリクの頭の中に響いてきた。
そう、それはかつてリクの肉体を乗っ取ったアンセム(ゼアノートのハートレス)の声だった。
(だが、人は人気者になれる。闇を恐れることなく孤独の道を突き進んだおまえには、勇気がある。さらに深い闇へ突き進むほど、おまえの人気は高くなる)
「(ど、どうすればいいんだ……?)」
ああ…ダメだ、リク。
こんな闇マニアの戯言に耳を貸しちゃダメだ。
…と言うより、再び闇マニアの囁き耳を貸してしまう程にソラに言われたことを気にしていたのだろうか。
リクはリクなりに、ストーリーの中で自分が損な役回りを強いられていることについて葛藤があったらしい。
何とも不憫な話である。
(闇に心を開くのだ。それだけでいい。おまえの孤独そのものが、全てを魅了する闇になるのだ)
記念すべきキングダムハーツ1作目のセリフを踏襲し、それでいて支離滅裂としか思えない闇マニアの囁きに、リクは負けそうになっていた。
孤独なキャラクターを貫き通すことで人気を得るか?
孤独を捨てて多くの友達を得るか?
孤独か…友達か…
孤独か…友達か…
孤独か…友達か…
孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…孤独…友達…
……………………………
……………………………
……………………………
リクにとって、それは究極の選択であるように思えた。
本来ならば悩まなくても良いようなものなのに、こういった命題について頭を抱えてしまう辺り、リクもまた年相応の少年であった。
「(ああ…まずい。このままじゃ、同じ愚行を繰り返す所だった)」
どうやらリクは心の闇に打ち克ち、正気(?)に戻ったようだ。
「俺は、自分はソラより人気があるって思ってた」
「ふーん」
「怒ったか?」
「いや、俺もそう思ってたから。リクには適わないって。……たまにだけど」
「たまに……かよ………」
キングダムハーツ2のエンディングを彷彿とさせる感動的なやり取りをしながらも、ソラの余計な一言によってリクは愕然とした。
10年以上も親友をやっているはずなのに、リクはソラの本質を見誤っていたのかもしれない。
そんなソラが、チラッと腕時計を見た。
何やら時間を気にしているようである。
「何だ?これから何か予定でもあるのか?」
「ん?だから、これからカイリとデート」
「……おまえな、デートの予定があるなら先に言えよ」
「あれ?言ってなかったっけ?ごめんな、リク」
「……いや、別にいい。気にするな」
「大丈夫!全然気にしてないって!」
「……そうか」
少しくらい気にしろ!!
……などと言いたくなったが、そこは敢えて黙っておいた。
今ここでソラを責めても仕方がない。
ソラにしても、悪意があってデートの件をリクに黙っていた訳ではないのだろう。
釈然としない気持ちはあったが、リクは喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「実はさ、リクが俺に用事があるみたいだからデートの時間を遅らせてもらったんだ。まぁ、反省会をやらされるとは思わなかったけどさ。で、そろそろカイリがここに迎えに来るはず……って言うか、来たみたいだ」
カフェの窓の外で、カイリが溢れんばかりの笑顔でこちら側に向かって手を振っているのが二人の目に留まった。
その後、すぐにソラは自分の100%パオプジュース代をテーブルに置き、足早にカフェから出ていった。
リクは仲良く手を繋いで歩き始めたソラとカイリを見つめながら、深い溜息を吐いた。
「昔は、何をするのも、どこへ行くのも、いつも3人一緒だったのにな……」
リクは時間の流れというものをしみじみと感じた。
幼馴染というやつは、大人になっていく過程でこんなことが頻繁に起こる。
誰かと誰かが付き合い始めて、余った誰かが寂しい思いをしたり。
今のソラ・リク・カイリの状況が、まさにそれだった。
つまり、リクは大人への階段をまた一歩上ったのだ。
ただし、ソラとは違う意味で。
「孤独、か………」
別に、友達が少なくたっていいじゃないか。
友達は量よりも質だ。
ソラ、カイリ、王様。
そして、今はいなくなってしまったナミネとシオン。
みんな、自分の大切な友達だ。
本編中でカイリ、ナミネ、シオンとは友達以上の関係になる機会も無くはなかった。
だが、これでいいのだ。
そうだ、そうに違いない。
16歳にして悟り(?)を開いてしまったリクはカ、フェの窓から手を繋いで楽しそうに笑い合っているソラとカイリを見つめながらそう思った。
《終》
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