機関の反省会②

キングダムハーツ(ギャグ系)
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No.2とNo.6が本編を振り返る

ここは存在しなかった世界のビル街に位置する、ちょっと洒落たバー“摩天楼”。

その店の前に黒いコートを着た二人の男。

「よお、久しぶりだなってハナシ」

「ええ、お陰様で。あなたもお変わりないようですね」

「じゃあ、入るか。ってハナシ」

「そうしましょう」

二人の男は店に入り、奥の二人用のテーブルに腰掛けた。

片方は壮年で、片方は青年だった。

「この店に来るのも久しぶりだなってハナシ」

「そうですね……」

ウェイター(?)のギャンブラー(ルクソードの配下ノーバディ)が注文を聞きに来た。

「俺はとりあえずビール。生でな」

「僕は赤ワインを……。あとチーズをお願いします」

ウェイター(?)は注文を伝票に書き留めると店の奥に消えていった。

「さて……単刀直入に聞くか、ってハナシ」

「何ですか?」

「おまえ、本編をプレイしてどう思った?ってハナシ」

「本編とは、つまり記念すべきキングダムハーツⅡですね?」

「おうよ」

「そうですねぇ……」

青髪の青年は、その長い前髪をかき上げた。

「非常に素晴らしい出来映えでした。多分、あれ以上の作品には中々お目にかかれないでしょう」

「お、俺はどうだった!?ってハナシ!!」

「そのことに関しては、申し上げにくいのですが……」

青髪の青年はため息を吐いた。

「ちょっと、出番が少ないですよね……」

「そ、そうか。やっぱりそう思うか…ってハナシ」

眼帯を付けた壮年の男がうなだれた。

「いえ、確かに出番は少なめでしたけどインパクトはありました。だからそんなに落ち込むことはありませんよ、シグバール」

シグバールと呼ばれた男が顔を上げる。

「俺の戦闘シーンはどうだった?ってハナシ」

「戦闘シーン……ですか」

青髪の青年は黙り込んだ。

「ま、まさか格好良くなかった……か?」

「いえ、そういうわけでは。やはりあれは『強さ』よりも『格好良さ』に重点を置いていたんですか?」

「どちらかと言えば、そういうことだってハナシ」

ウェイター(?)のギャンブラーが生ビール、赤ワイン、チーズを持ってきた。

二人は早速それらを頂くことにした。

「個人的な感想ですが、シグバールの戦闘モーションはかはり格好良いと僕は感じました。戦闘エリア外から狙撃したり、相手の背後や頭上に瞬間移動して銃を乱射したりと、アクション映画張りの演出でしたよ」

「そうか。それなら俺は満足だってハナシ」

「それならって……他のことはどうでもいいんですか?」

「だって弱かっただろ、俺」

「…………(言葉を濁している)」

「別に気にしてねぇってハナシ。ボス敵が強く感じられるのは大概一回目だけってハナシ。もし負けてもそのうち攻略方とかがわかってくるしな。まして、おまえみたいな策士にとっちゃボスもザコ敵も大差ないだろうよ。ってハナシ」

「シグバールには申し訳ないのですが、その通りでした」

青髪の青年は赤ワインをグラスに注ぎながら言った。シグバールも生ビールをジョッキに注いでいる。

「ところでよぉ、ゼクシオン」

「はい?」

「正直言って、ⅩⅢ機関の扱い、どうだったと思う?ってハナシだ」

ゼクシオンと呼ばれた青髪の青年は、赤ワインが入ったグラスに口を付けながら目を瞑った。

何やら表情が艶めかしい。

「まず最初に言っておきたいのは、これは完全に僕個人の感想だということです。他の方が何と仰るかわかりませんが……」

「いいから言ってみろってハナシ」

「……オイシイところは、ロクサスとアクセルに持ってかれてしまいましたね」

「ありゃどう考えても抜け駆けだよなァってハナシ。まあ実際、あの二人は機関内じゃ裏切り者扱いだったけどな、ってハナシ」

「それとサイクスも結構重要なポジションにいましたよね。機関を裏切ったアクセルを追跡したり、ソラに機関の目的を明かしたり……」

「デミックスも世間じゃ結構な評判だってハナシ。出番は少なめだったけど性格の二面性を発揮してファンの心を掴んだってハナシ」

「有名な『黙れ、裏切り者』……ですね?」

「そう、それ。やっぱり決め台詞があると違うってハナシ」

「それならシグバールにだってあるじゃないですか」

「俺に?」

「~~ってハナシ。よく言うじゃないですか」

ははは、と笑いながらシグバールはジョッキ一杯のビールを一気飲みした。

「ゼクシオンよぉ、それは『決め台詞』ではなくてただの『口癖』だってハナシ」

「『決め台詞』か『口癖』か……というのはあまり重要ではないのですよ」

「……と言うと?」

ゼクシオンがチーズを一切れ手に取った。

「デミックスの例で言えば、仮にあの台詞がなかったとするならば、デミックスは単なる優柔不断です」

「たしかにそうかもしれない……ってハナシ」

「しかし、ソラと対峙して臨戦体勢に入ったとき『黙れ、裏切り者』と言い放ったことで、デミックスという人物は実は腹黒い、性格に関しては底知れないものがある……という印象を我々ユーザーに与えたわけです」

「深い読みだな。それがデミックスの人気の秘密か?ってハナシ」

「僕はそう考えています。強さ云々を置いといて、彼はルックスもいいですからね」

「ルックスなら、おまえさんも負けてねぇと思うけどな、ってハナシ」

ゼクシオンはグラスの赤ワインを飲み干したた後、チーズを一切れ口に入れた。

どことなくではあるが、ゼクシオンはほくそ笑んでいた。

「さて、話を元に戻しましょうか?……シグバール」

ゼクシオンは空のグラスをテーブルに置いた。

「デミックスの所でも言いましたが、重要なのはその人を強調する個性があること……つまり、あなたでいうところの口癖ですね」

「この口癖がねぇ……」

「この口癖があって初めてあなたは『シグバール』として我々に認知されるのです。口癖の無いシグバールはシグバールではありません」

「そこまでキッパリ言ってもらえると少し嬉しいってハナシ」

「おかげで本編でも味のあるキャラクターに仕上がっていたと思います。少なくともザルディンよりは遥かにインパクトがありました」

「そーか!そーか!」

またもやジョッキで生ビールを一気飲みするシグバール。

心など無いはずなのだが、どうやら気分が良いらしい。

無能な指導者への怒り

「ところで、シグバール。一つお聞きしたいことがあるのですが……」

「何でも言ってみろってハナシ」

一気飲みしたせいか、シグバールの顔が赤い。

その様はどこからどう見ても仕事上がりに一杯やっているオッサンそのものだった。

「先程、貴方は『嬉しい』と言いましたね?」

「んあ?言ったっけか……?」

「確かに言いました。もしや、シグバール。心を手に入れたのですか?」

「俺は前と変わらずノーバディのはずだけどな。相変わらず心は無いってハナシ」

「でも、嬉しいことは嬉しかったんですよね?」

「んー。まあ、そう考えると不思議だなってハナシ」

シグバールはジョッキをテーブルに置いた。

「心かぁ。結局、俺たちは心を手に入れられなかったな……ってハナシだ」

「そうですね。キングダムハーツも結局完成しなかったですし」

「おう、それなぁ。賢者アンセムにキングダムハーツをぶっ壊されてしまってよぉ。俺たちの努力が台無しだってハナシよ」

「あれは酷い展開でしたね。ノーバディを救うべき希望の象徴が……何とも嘆かわしい」

「全くだ。ゼムナスにもーちっとばかり、統率力があればなぁ……」

「COMでは“機関の指導者は恐ろしい存在である”ということを示唆する言葉が所々で出てきてはいたのですが……。本当に嘆かわしいことです」

「まあ、ゼムナスのことは抜きにして、もう少し機関のメンバー同士が絡むイベントが欲しかったなってハナシ」

「確かに、機関のメンバー同士が絡むイベントはあまりありませんでしたね……」

「俺は機関の組織的な部分をもっと出してもらいたかったな……ってハナシ」

「シグバールを含めて、ほとんどのメンバーは単独行動ばかりでしたからね」

ゼクシオンはため息を吐き、再び赤ワインをグラスに注ぐ。

酒でも飲まないとやってられないといった顔をしている。

ノーバディだって酒に耽りたい時もあるのだ。

「やっぱり、本編でメンバーに細かい任務を言い渡していたのはゼムナスなんですか?」

「おお、その通り。大体よぉ、機関の活動が活発化するのもストーリー後半からだし、ウチの指導者は悠長に構えすぎだってハナシ」

シグバールの顔は不出来な上司を持つ部下の顔になっていた。

彼の左頬の傷跡が余計痛ましくゼクシオンには思えた。

「デミックスがソラの本性を引き出す……もとい、確認するという任務もゼムナスの意向だったんですか?」

「その通りってハナシ」

「デミックスも自分で『こういう任務は俺向きじゃない』と言っていましたからね。全く、部下を巧く使えない上司というのは頭が痛い限りですね」

「しかもあいつ、賢者にキングダムハーツが破壊される場面で、何もしないでただ立っているだけだったしな。判断力も無ければ行動力も無いってハナシだ」

「同感です。そのくせ機関には『指導者の命令には絶対服従』みたいな掟がありましたからね。頭が馬鹿だと苦労するのは手足の方だというのに……」

シグバールとゼクシオンは顔を見合わせた。

「今日の俺たち、えらく意気投合していないか?ってハナシ」

「僕もそう思っていたところですよ、シグバール。不出来な上司を持つ部下の苦悩。僕にはよくわかります」

ゼクシオンはグラス一杯に注がれた赤ワインを一気に飲み干した。

「今日のワインは実に美味しいです。こんなに酒が美味いと思ったのはイエンツォ(※ゼクシオンがノーバディになる前の名前)だった頃以来かもしれません…」

ゼクシオンはフゥーっと息を吐き出した。

口元が妙に艶めかしい。

「確かに、俺もいつもよりビールが美味いと感じる。この感じは……そうだ、俺がまだブライグ(※シグバールがノーバディになる前の名前)という名前だった頃に経験がある。誰かに対する不満を酒の肴にする。この上なく懐かしいってハナシだ」

「僕たち、今日はずいぶんと人間らしいですね……」

ゼクシオンも、シグバールも、ノーバディのくせに感慨深い表情をしている。

おまえら、本当に心が無いのか?

「ゼクシオンよぉ。さっきおまえ、俺に『心があるんじゃないか』みたいなことを言ったよな」

「ええ、言いましたね……」

「俺たちはノーバディだけど、不出来な上司に対する怒りはあるようだなってハナシ」

「そのようですね……」

「案外キングダムハーツを完成させる以外にも、ノーバディが心を得る方法はあるんじゃないのかってハナシ」

「そうかもしれませんね」

「だとしたら、ノーバディの未来は案外明るいかもな……ってハナシだ」

「我々が機関の一員であるうちは見通し暗そうですが……」

「おいおい、それは言うなってハナシ」

気が付くと店のマスター(?)のソーサラーがシグバールとゼクシオンに向かって合掌していた。

ゼムナスの配下ノーバディの分際でいい気になるな。

二人は同時にそう思った。

《終》

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